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六代目農園主/七代目 白鳥 安章さん / 白鳥文也さん

拝まずにはいられない絶景。雲海に浮かぶ茶園「かねぶん」

日本に絶景スポットは数多くあれど、雲海に浮かぶ富士山と茶畑を一望できる場所はそうそうなく、ここ静岡市清水区吉原は、特に写真愛好家の間でよく知られる絶景スポットです。そんな地で、山のお茶づくりに情熱を注ぎ続けて百十余年。今回はおかかえ茶園かねぶん六代目白鳥安章さん、七代目文也さんに景観茶園としての取り組みについてお話を伺ってきました。

取材日2018年7月24日

白鳥 安章さん

PROFILE

白鳥安章さん
おかかえ茶園かねぶん六代目農園主
100%吉原産にこだわり、生産に励む傍ら、その景観を広め、保護するため意欲的に活動している。吉原一本杉友の会主催。

白鳥 文也さん

PROFILE

白鳥文也さん
おかかえ茶園かねぶん七代目
24歳の若き七代目。アパレル業界で培ったセンスで、雰囲気ある喫茶室作りや、若い世代へのお茶の普及を目指す。

雲海が人を呼び、お茶が人を呼ぶ。

市街地から15分ほどでこんな場所に来られるなんで、驚きですね。

安章さん:
ありがたいことにこの恵まれた景観が話題を呼んで、ここ数年来訪者の数が、ぐんと増えていてね。様々な方の広報活動や、SNSの発達のおかげだと思っています。

文也さん:
オーストラリアから、突然タクシーで来てくれた方もいましたね。 いきなりタクシーの運転手さんから「今、かねぶんさんへ行きたいっていう海外の人乗せてるんだけど!」って電話がかかってきて(笑)見て下さった観光パンフレットの撮影場所へ案内して、お茶を振舞ったんですよね。

安章さん:
本当に皆さん感動してくださるよね。海外の方に限らずね、雲海を知らない人も結構いるから。写真愛好家の常連さんですら、年に数回、特に素晴らしい雲海に立ち会えた時なんかは、もうね「おぉ・・・・・!!!」ってなっちゃうの。荘厳すぎて言葉が出なくなって、拝むって言うよね。

取材時、一本杉からの眺め。あいにく富士山は見えないものの、広大な自然と茶畑に圧倒。

一本杉周辺の茶畑は、特に撮影スポットとして名高いですよね。そこへご案内するというのは、本業である農業とは別の部分ですが、なぜこうした取り組みをされているのですか?

安章さん:
僕はどちらかというと黙々と仕事をするタイプで、そういうことには元々消極的でね。「俺の場所を貸してやってるんだぞ」みたいな感覚で捉えられるのもよろしくないかなという思いもあって、土地の持ち主として顔を出すことに遠慮があったんです。

ところが、来訪者と地元の人間とで、知り合い、交流をすることで、互いに気兼ねなく利用しやすくなるんですよという話を周りから受けて。それじゃ変に遠慮せず、積極的に動いてみようとなり、来訪して下さる方々に、母屋へ立ち寄っていただいたり、正月三が日には甘酒を振舞ってみたり。そうして関わり合っていくうちに親睦が深まり、やはりコミュニケーションが大切だと気付かされましたね。

吉原一本杉友の会という会を一昨年の暮れに立ち上げ、今年で2年目になります。主に写真愛好家の方々が入会してくださり、現在会員数は150名程になりました。撮影ポイントの環境や、景観、自然も含め、そこに関わる皆で保全していきたいねという趣旨で活動しています。景観×農地を、うまく組み合わせて話題にしていただき、喫茶室にも立ち寄って下さったりね。本当にありがたいことです。あまり大それたことをしているわけではないけれども、それぞれ会員証を掲げてもらう事で、会員さん同士のコミュニケーションのきっかけになったら嬉しいですね。

一本杉友の会有志で、整備された撮影広場

来訪する方々からヒントを得た「沖のくぼ 銀座」の誕生

荒廃していた農地を再生させ、新たなお茶づくりをされていますよね。
縮小する農家さんも多い中、再生に踏み切った経緯を教えてください。

安章さん:
吉原は山間地だから、機械の入れづらい急斜面の畑というのは、農地としてだけ見れば、非効率的でやりやすい場所とは言えないんですよね。するとどうしても機械化できる畑が優先になっていき、荒廃農地がぽつぽつと出てくるわけ。

しかしながら、景勝地として見ると、そんな厳しい条件の畑こそ、非常に優れた立地でね、農道沿いにカメラマンの皆さんがずらーっと三脚を据え立てるんですよ。目を輝かせながら撮影に臨む方達の足元に目をやると、荒廃した畑。全体像として見ると、それが妙にアンバランスに見えてね。それでなんとかしようと思い立ち、荒廃した農地「沖のくぼ」を再生させることにしたわけです。

この畑は3000平米、900坪程ある広さを、無農薬でやらせてもらっています。無農薬は人力でやるしかないので・・・先日も猛暑の中、親子二人、死ぬ思いで草取りをやりました(苦笑い)

なぜ無農薬にこだわったのですか?

文也さん:
実際にそこで商品ができたとしても、すぐに流通させるというのは、難しいかなという懸念もあったんですよ。ではどのように売っていこうとなった時、既存のお客様とはまた別のところへもお届けできないかなと考え、たどり着いたのが素晴らしい景観を眺めながら育った、無農薬のお茶、というところですね。日本のオーガニックのお茶を求める海外からの声も高まっているので、それにもお応えできればと、取り組んでいます。

安章さん:
銀座っていう名前は、足しげく通って下さる写真愛好家の皆さんが、その撮影スポットにつけた呼称なんです。その素敵な名前をお借りし、「沖のくぼ 銀座」が出来上がりました。茶畑が景観をさらに引き立て、そしてこの素晴らしい景観が、ここで育つお茶のおいしさや価値をさらに引き出してくれる。どちらもなくてはならないものとして、与えられたこの条件を最大限に活かして、精いっぱいやらせていただきたいですね。

古きを守るために。親子二代での新たな挑戦

七代目の文也さんは24歳とお若いですが、新たな世代から見たお茶業界はいかがですか?

自分は家業を継ぐ前にアパレル業界にいたので、この仕事はまだ2年目なんです。生産は父がバリバリ現役なので、少しづつ学ばせてもらっているところですね。うちはお茶農家ですけど、自園(自分の畑で取れた茶葉を)自製(自分の所有する茶工場で加工し)自販(自分で仕上げて販売する)全てやっている農家。祖父の代から仕上茶としての販売まで手掛けるようになりましたが、自分くらいの年代の人で急須でお茶を淹れて飲む機会というのは、静岡でもなかなか減ってきているんですよね。

そんな中でどう広めていくのか、飲んでいただくかを考えると、やっぱり作って売るだけではない、何かしらの体験と組み合わせて提供していくことが重要になっていくのかなと思っていて。喫茶の提供はまだまだ歴史が浅いので、これからいろいろ勉強していかなければならないですね。

どのようなサービスを描いていらっしゃいますか?

文也さん:
街中にはおしゃれなお茶カフェが多いですよね。最初はここもそんな今時な雰囲気にしようと思っていました(笑)。でも今は、この吉原という土地にあったお店作りをしたいと思っています。古くからあった山小屋を解体して持ってきて、父の代からこの喫茶室を始めたんですが、この風情ある雰囲気を気に入ってくださる方も多いんですよ。そうやって古いものも活かしながら、和の高級感もありつつ、田舎の素朴さもあるような。こんな山奥までうちのお茶を求めて来てくださるというのはよっぽどのことですから、景観やお茶と共に、ゆっくり流れる時間を楽しんでいただける場所、をコンセプトに、おもてなしや空間づくりに力を入れていきたいです。ありがたいことに、父も好きにやらせてくれているので、色々挑戦していきたいですね。

丁寧に淹れていただいたあとの茶葉は、塩やちりめんじゃこと和えていただけます。
飲んで美味、食して美味とまるでコース料理のよう。

安章さん:
生産の課題としては、生産性が決して良くない山間地域の畑を、工夫して持続させていくことですね。こだわりのひとつとして、うちは吉原産のお茶しか使わないんです。他地区のお茶を混ぜないので、なおさら生産性は下がるのだけど、少しでも効率を良くするために、改良の余地はまだまだあると思っていて。 吉原だからこそできる、お茶の作り方を模索し続けていくのが、課題でもあり楽しみでもありますね。

最後に今一度、吉原の魅力をどうぞ!

安章さん:
ここで暮らしている私たちが日常だと思っていることが、本当に世間では全然当たり前じゃなかったりするんだよね。雲海の景観しかり、農作業しかり。非日常で特別なんだよね。だからこそ、私たちにとってのいつもの景色、農作業など生活の様子を日々発信したり、交流、体験イベント等を通して、多くの方に吉原の茶農家の日常をおすそ分けできれば良いですよね。そうしてそういったことを通じて親しみを持っていただき、文字通り皆様の「おかかえ茶園」にしていただけたら、ありがたいことですね。

皆さま、ぜひ吉原に足を運んでみて下さい。

インタビューを終えて

インタビュー中、繰り返し「おかげさま」「ありがたい」という感謝の言葉が出ていた安章さんと、斬新な経歴で、これからの取り組みに興味が尽きない文也さん。吉原の景観はもちろんのこと、お二人の魅力的なお人柄も、この茶園へ人が集まる理由のひとつだなと感じました。非日常でありながら、どこか故郷へ帰ってきたような懐かしさも感じさせてくれる、そんな場所。絶景を堪能した後は、ぜひ、かねぶん喫茶室へ立ち寄り、こだわりのお茶をいただきながら、お二人とのふれあいを楽しんでみてはいかがでしょうか。

おかかえ茶園かねぶんのインフォメーションはこちら

  • 住所
    静岡県静岡市清水区吉原979
  • Tel
    054-368-1913
  •  
  • 営業時間
    10:00〜16:00(喫茶室)
  •  
  • 定休日
    年中無休(前日までに要予約)

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