静岡から世界に発信! 美しき下駄アートの世界
静岡県静岡市生まれ、静岡市在住の下駄作家 鈴木千恵さん。下駄1組を1枚のキャンバスと見立てた現代風なアートや遊び心あふれる作風は、伝統工芸に新風を吹き込み、その活躍の場は国内のみならず海外にも広がっています。
今回は、8月初旬に静岡で開催された個展にお伺いして、鈴木さんの作品に掛ける思いや制作の裏話をお聞きしました。
取材日2015年8月5日
PROFILE
静岡県静岡市生まれ、静岡市在住。1998年に静岡市伝統工芸技術秀士の佐野成三郎氏に塗下駄の技法を教わり、起業するまで10年を費やし、現在は起業して6年。
ファッションデザイナーの森英恵氏のすすめで東京・表参道のギャラリーや、水戸芸術館で開かれた「手で創る―森英恵と若いアーティストたち」に出品した経験も。
木目が見える透明感が一番の特徴
一般的な「下駄」のイメージとは一線を画す美しいデザインに驚きました。
鈴木さんの下駄作りのコンセプトを教えてもらえますか?
履くための下駄だけど、“持ち歩けるアート”を念頭に置いて下駄作りをしています。
実際に制作をする場合は、既に200種類以上あるデザインと下駄の形と鼻緒をお客様に選んでもらい、それを基にセミオーダーのような形で制作に入ります。
セミオーダーと言っても絵付け等は時間が掛かる作業なので、今日は下絵、明日は色付け、と分業で行っていて、制作出来る下駄は1か月に20足くらいが限界です。
具体的な手法は申し上げられないのですが、通常の下駄が黒や赤で塗りつぶし表面は木目が見えないものが多い中で、私の作品は「透明感があり、木目が見える」というのが一番の特徴になっています。
通販で気軽に買えるような商品ではないので、実際に現物を見て、触れて、気に入ってもらえるのが一番嬉しいです。
ちなみに、私のネーミングは「下駄アーティスト」ではなく「下駄アーチスト」になっているのですが、これは以前『徹子の部屋』に出演させてもらった時にプロデューサーの方が付けてくださいました。屋号である「ち./Chee.」の文字がネーミングの由来です。
8月初旬に静岡で開催された個展のようす。アートのような美しい下駄作品がズラリ。
ファッションデザイナー森英恵氏の目にとまったのが大きな転機に
鈴木さんが下駄作家を志したのは、どんなきっかけでしたか?
私は静岡県静岡市に生まれ育ち、そのまま市内の靴メーカーに企画デザイナーとして就職しました。その後、自分でオリジナルの靴を作りたいという動機からイギリスに靴の学校を探しに行きましたが、逆に異国の地で「日本には伝統のある下駄という素晴らしいものがある」と気づいたのが大きなきっかけです。
帰国後、タイミングよく静岡市で行われていた下駄の展示会で、静岡市伝統工芸技術秀士の佐野成三郎氏に出会い、仕事をしながら塗下駄の技法を学び下駄作家としての道を歩み始めました。
そんな中、フリーペーパーの下駄特集で掲載された私の作品を見たファッションデザイナー森英恵氏のすすめで、東京・表参道にあった彼女のオープンギャラリーに出品するというチャンスに恵まれました。
その後、水戸芸術館で開かれたグループ展出品を機会に高島屋全国6店舗での展示会がスタート。今では毎年夏の恒例行事として、常連のお客様が朝早くから来場してくださる大切な展示会です。
着物を着る方が購入するのかと思いきや、洋服の方がほとんどでサンダルの代わりに鈴木さんの下駄を履いてオシャレを楽しんでいるそう。
今年のマイブーム「薄い紺色」の作品や、ユニークなタイトルも見どころ
鈴木さんのテーマやモチーフはどこから湧いてくるのでしょうか?
テーマはズバリ「自分の気分」です(笑)
毎年自分のマイブームを決めて、それを基に作品作りをしています。
ちなみに今年は「薄い紺色」がマイブーム。今回の展示会の作品の中にも何点か出品しました。
作品のモチーフは日常で見たものや感じたもの、ですね。特に和風のものが好きというわけではないのですが、結果的に作品になったら「和風のものが多いね」と知り合いから言われることがあります。
今年のマイブーム「薄い紺色」の作品。
とてもユニークなタイトルの作品が多いですね。
お客様によってはタイトルも見て決めてくれる方もいらっしゃるので、ひとつひとつの作品に心を込めてタイトルを付けています。
最終的なタイトルは作品が出来てから決める事が多いです。
制作に取り掛かる際には、親指くらい小さいスケッチをしたり、描きたいテーマを文章で箇条書きにしたりして制作を進めています。
その名も「盛々パンダ」。タイトルと合わせて見ると、作品がより生き生きとして見えます。
とにかく、思いついたことをやっていきたい
とても楽しく自由に作品を作られているように見えます。
これだけは譲れない、というところはありますか?
値段を下げて数を売る為に簡単なものを描くというような事はしたくないし、シンプルな絵柄でもこだわりがある作品を作っていきたいです。なにより見てくれる人が楽しんでもらえるものを作っていきたいと思っています。
以前は、見る人に作品のタイトルを付けてもらいたいという気持ちから、作品にタイトルを付けていなかった時期もありました。
見る人が好きなようにストーリーやキャラクターを感じて想像して欲しいです。
ありがとうございます。今回はじめて鈴木さんの下駄の現物に触れてみて、写真では伝わらない下駄の重さや木の感触、コーディネートする着物や洋服によっても、全く違う表情を見せるところに魅力を感じました。最後に、これからのご予定や将来の夢をおしえてください。
昔から将来の計画を立てたりするのが苦手なので、とにかく思いついた事をやりたい! です。
でもいつかやってみたいと考えているのは「下駄のワークショップや教室」を開くこと。作品を買っていただいている方に下駄作りの絵付けや色つけの楽しさを味わっていただきたいと思っています。
鈴木千恵さんのインフォメーションはこちらから
- 鈴木千恵ホームページ「ちの工房」
http://chee-lab.com - 「鈴木千恵」Facebook
https://www.facebook.com/chee.lab
インタビューを終えて
下駄は日本の素晴らしい文化でありながら、最近は下駄を履くことはもちろん見ることも少なくなっていました。
インタビューをする前は漠然と「下駄=和服」というイメージしかなくて購入する人も普段から着物を着ている人なんだろうなと思っていました。
しかし、今回鈴木さんのお話をお伺いして和服よりも洋服やジーンズに合わせる方が多くいるというのに驚きました。
それだけ下駄って、自由で現代でも生きているモダンなファッションアイテムだったことを改めて感じさせられました。
さらには、自分で考えたデザインや絵が世界にひとつしかない、自分だけの下駄になっていろいろな場所に履いていけるアートになる。
そんな素敵な体験が実現する日も近いかもしれませんね。